相続放棄

相続放棄のメリット


  • 被相続人に多額の借金があっても、残された相続人の方は、一切の借金を引き継がなくても済みます。
  • 被相続人が誰かの連帯保証人になっていた場合も、保証人の地位を引き継がなくて済みます。
  • 相続財産を集中化で来ます。
  • 相続放棄をしても、相続税の基礎控除の人数に算入できます。
  • 自分の子供にも代襲で相続されません。
  • 他の人にはわかりません。相続放棄をしても、自己破産のように官報等には載りませんし、戸籍や住民票にも載りません。自分で話さない限りは、第三者にはわかりません
  • 相続放棄は、あくまで相続財産(遺産)関係のみの話で、身分関係、家族関係がなくなるわけではありませんい。
  • 相続放棄の手続き後、新たな債権者が現れても、相続放棄を伝えれば大丈夫です。

相続放棄の証明としては、「相続放棄申述受理通知書」のコピーを渡すか、「相続放棄申述受理証明書」を裁判所で取得して渡せばよいです。(一通150円)「相続放棄申述受理証明書」は、相続放棄が受理されると、裁判所から本通知書が発行されます。「相続放棄申述受理証明書」は、裁判所に申請した場合にのみ交付が受けられ、何通でも取得可能です。利害関係人(債権者)や他の相続人という立場であれば請求できます。 

司法書士報酬


  項目 3か月の熟慮期間経過「前」 3か月の熟慮期間経過「
報酬  相続放棄申述書 ¥35,000  ¥50,000
2人目以降 ¥20,000 ¥35,000
戸籍収集 1件¥1,000
実費 印紙、郵便切手 460円(内訳:82円5枚,10円5枚)※さいたま家庭裁判所の場合
戸籍 戸籍¥450 除籍謄本・原戸籍¥750

相続放棄のデメリット


  • 相続人が変わることがあります。

相続トラブルの可能性があります。例えば、自分が死んだ夫の相続を放棄したために、夫の親や兄弟に債権者から取り立てが行くこともある。そのため、父母兄弟には前もって夫に借金があったこと、自分たちは相続放棄を考えていることを言わなければ後で相続トラブルの可能性があるので注意が必要です。(父母や兄弟に相続権が移っても父母兄弟も当然相続放棄ができますが)

  • 期間の制限があります。

相続人は,自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月の熟慮期間内に,単純承認,限定承認又は相続放棄をしなければなりません。しかし、利害関係人(相続人も含む。)検察官の申立てにより、請求により家庭裁判所は、この3か月の熟慮期間を伸長することができます。(民法915条1項)

  • 撤回ができません。

相続放棄が認められた後は、たとえ理由があったとしても撤回することはできません。例えば、相続放棄する前には気づかなかった高価な相続財産があることを後に知り、放棄を撤回にして欲しいと言っても、それは認められません。「知らなかったのは仕方ない!」と主張しでも認められない。自分が相続人と知ってから、相続放棄のできる熟慮期限は3ヶ月間あるので、事前に相続財産の調査をしっかりとやらなければなりません。

 

遺産分割上での、相続放棄


遺産分割での相続放棄では、借金の返済義務は免れません

 

例えば、遺産分割協議書内で「すべての財産は長男に相続させる」としました。(事実上の相続放棄)しかし、その場合でも負債もすべて長男が負担ということになりません。家庭裁判所を通して相続放棄をしていない場合、何も相続していないとしても、相続人全員で負債を負担する義務が生じます。

 

遺産分割協議書に書かれた内容というのは、あくまでその書類に署名捺印した相続人全員が承諾した内容であって、債権者に通用するかどうかは別の問題です。債権者も交えて行なわれた契約ではないので、債権者には主張できません。(※債権者が承諾すれば請求されないこともあります)。そうしたリスクを避けるために、きちんと家庭裁判所を通して相続放棄をすることをおすすめしています。

相続放棄ができない場合


・3か月の熟慮期間の経過した場合

・単純承認または法定単純承認してしまった場合

 

  法定単純承認事由にあたる事例

  • 相続人の不動産や預貯金を自分に名義変更してしまった。
  • 遺産分割協議書を作成して、相続手続きを進めてしまった。
  • 亡くなった方の借金を支払ってしまった。
  • 債権の取り立てをしてこれを受け取った。(最高裁昭和37年6月1日判決)

3か月経過した、法定単純承認事由に該当したしまった場合は、原則、相続放棄できません。

 

しかし、状況により、以下の判例のように、相続放棄が受理される場合もありますのでご相談ください。

 

  • 相続人が被相続人の積極財産について知っていたが、債権者からの誤った回答により債務が存在しないものと信じて財産をを処分し、また熟慮期間が経過した事案で、遺産の構成に関する錯誤が遺産内容の重要な部分に関するものである時は相続人が錯誤に陥っていることを認識した時点に熟慮期間の起算点を遅らせることにした(高松高裁平成20年3月5日決定)
  • 葬儀費用の支払いを相続財産からした場合。この点については、大阪高等裁判所の決定があります。では、「遺族として当然なすべき被相続人の火葬費用ならびに治療費残額の支払に充てたのは、人倫と道義上必然の行為であり、公平ないし信義則上やむを得ない事情に由来するものであつて、これをもつて、相続人が相続財産の存在を知つたとか、債務承継の意思を明確に表明したものとはいえないし、民法九二一条一号所定の「相続財産の一部を処分した」場合に該るものともいえないのであつて、右のような事実によつて抗告人が相続の単純承認をしたものと擬制することはできない」と判示しました。(大阪高裁昭和54年3月22日決定)
  • 被相続人に多額の債務があることを知らずに遺産分割協議を行った相続人について、「遺産分割協議が要素の錯誤により無効となり、ひいては法定単純承認の効果も発生しないと見る余地がある」と判示しました。例外的に、遺産分割協議が法定単純承認事由とならないという判断をした裁判所の決定です。(大阪高裁平成10年2月9日決定)
  • 形見として背広上下、冬オーバー、スプリングコートと位牌を持帰り、時計・椅子二脚の送付を受けても信義則上処分行為に該当しない」という判例があります(昭和40年5月13日山口地方裁判所徳山支部判決)。しかし、「被相続人の遺品を形見分けしただけでは、民法921条3号の「隠匿」には当たらないが、被相続人のスーツ、毛皮、コート、靴、絨毯など財産的価値を有する遺品のほとんど全てを自宅に持ち帰る行為は同号に該当し、法定単純承認となる」(東京地裁平成12年3月21日判決)

 

限定承認


プラスの財産とマイナスの財産があって、相続放棄をするべきかどうか分からない場合には、あまり使われていないが、相続放棄以外に、限定承認という方法があります。

 

しかし、限定承認の手続は、相続人全員でやらなければならず、債務の清算手続きが必要なため財産調査を詳細に行うため手続きが煩雑になり、またみなし譲渡取得税がかかることがあります。そのため手続期間も1年以上を要することが多く、専門家へ依頼する場合には最低100万円単位で費用がかかることが多いです。

 

そのため、相続財産の全体が不明で、負債が数千万円あるけれど、もしかしたらそれを上回るプラスの財産があるかもしれない場合や、先買権を行使して、住んでいる不動産を守りたい時などに向いています。

 

※2016年度の件数は、限定承認が753件、相続放棄が19万7656件となっており(出典:裁判所 司法統計年表 家事編)、限定承認の件数は相続放棄の200分の1以下です。

 

手続、必要書類等


  • 相続放棄申述書
  • 申述人(相続人)、被相続人(亡くなった人)の戸籍謄本等 →さいたま家裁HP
  • 被相続人(亡くなった人)の住民票の除票または戸籍の附票(本籍地が記載されたもの) 亡くなった方との続柄で必要書類は変わります。下記の表を参照してください。
  • 収入印紙(1人800円)
  • 返信用の郵便切手郵便切手 申述人1人につき460円(内訳:82円5枚,10円5枚)※さいたま家庭裁判所の場合
  • 申述人(相続人)の認印

 

相続放棄をする場合、家庭裁判所への提出書類に相続放棄をする理由を記入する必要があります。生活が安定しているから、債務超過など一定の理由を裁判所へ伝えなければなりません。資産や負債の詳細について記載する欄もありますが、厳密に細かく調べる必要はなく、わかる範囲で記載しておけば大丈夫です。通常は裁判所との郵送のやりとりだけで手続きが可能です。もし裁判所が必要と判断すれば、裁判所へ呼び出しされることもあります。提出する書類の作成方法によっても、裁判所の対応が変わることがあります。相続放棄は1度しか申請して、認められなければ再度申請ができない手続きとなりますので、専門家へ依頼することをお勧めです。